文例・記録 3
虐待が疑われるときの記録の書き方:主観語を使わない(悪い例→良い例)
訪問であざを見た、冷蔵庫が空だった、本人が「息子に怒鳴られる」と言った。そのとき支援経過に何を書くかで、あとの市町村の事実確認がスムーズに進むかどうかが決まります。虐待かどうかを判断するのはケアマネの役目ではなく、市町村と包括の役目です。あなたの記録に要るのは「判断」ではなく「事実」です。この記事は、書き直しの例を6組と、そのまま使える型をまとめました。
先に押さえること:確信がなくても相談してよい
- 高齢者虐待防止法では、養護者による虐待を「受けたと思われる」高齢者を見つけた人は市町村へ通報するよう努めることになっており、生命や身体に重大な危険が生じている場合は通報しなければならないとされています。「受けたと思われる」段階でよく、確信は要りません
- 通報したことを理由に不利益な扱いを受けないこと、市町村の職員が通報者を特定させる情報を漏らしてはならないことも同じ法律で定められています。守秘義務の違反にもならないとされています(要確認)
- 本人が「何もない」と言っても、通報の判断は変わりません。本人の同意は通報の条件ではありません
- 通報の前に管理者へ報告し、事業所として通報する形にすると、一人で抱えずに済みます
記録は、この通報・相談のときに「何を見たか」を正確に伝えるためのものです。だから、判断や感情でなく、事実を残します。
記録の型:6つの要素
| 要素 | 書くこと | 例 |
|---|---|---|
| 見たこと | 自分の目で確認した状態 | 左上腕内側に紫色のあざ2か所 |
| 聞いたこと | 本人・家族の言葉をそのまま「 」で | 本人「昨日転んだ」 |
| 日時 | 訪問日・時刻。前回との比較があれば前回の日付も | ○月○日 14:00 |
| 部位 | 体のどこか。左右・内側外側まで | 左上腕の内側 |
| 大きさ・数 | おおよその大きさ・数・色 | 直径約3cm・2か所・紫色 |
| 誰に報告 | 報告先・時刻・相手の返答 | 同日15:30 管理者○○に報告 |
これに「前回訪問との違い」と「本人の様子(表情・声・行動)」を事実として添えると、市町村が事実確認をするときの手がかりになります。
避ける言葉と、言い換え
| 避ける | なぜ | 言い換え |
|---|---|---|
| 虐待されているようだ | 判断。事実確認は市町村の役割 | 「あざを確認。本人『転んだ』と発言」 |
| 長男が怪しい/長男のせい | 決めつけ。記録が家族の目に触れる可能性もある | 「長男は訪問時不在」「長男『母は勝手に転ぶ』と発言」 |
| かわいそう/つらそう/おびえている | 感情・印象 | 「下を向いたまま返答なし」「声が小さく、質問に3回聞き返す」 |
| 食事を与えられていない | 推測 | 「冷蔵庫内に食パン半分と調味料のみ」 |
| 閉じ込められている | 推測 | 「玄関の内鍵が外側から施錠。本人『開けてもらえない』と発言」 |
| ネグレクト/経済的虐待 | 類型の判定。市町村が行う | 事実だけを書き、類型の言葉は使わない |
悪い例→良い例 6組
### 1. あざ
悪い例:
腕にあざあり。虐待の疑い。本人は転んだと言うが怪しい。
良い例:
○月○日 14:00 訪問。本人の左上腕内側に直径約3cmの紫色のあざ2か所を確認。本人「昨日転んだ」と発言。転んだ場所を聞くと「台所」とのこと。右手首にも黄色っぽい変色(約2cm)あり、本人「覚えていない」と発言。長男は不在。前回訪問(○月○日)時にあざはなし。同日15:30 管理者○○に報告。
ポイント:「疑い」「怪しい」を消し、部位・大きさ・色・数・本人の言葉・前回との比較を入れる。
### 2. 食事
悪い例:
食事を与えられていない様子。痩せてきていてかわいそう。
良い例:
○月○日 訪問時、冷蔵庫内は食パン半分・調味料のみ(本人の許可を得て確認)。炊飯器は空で乾いている。本人「昨日は昼にパンを食べた。夜は食べていない」と発言。前回訪問(○月○日)と比べ頬がこけて見える。体重は未測定(次回測定予定)。長男「仕事が忙しくて買い物に行けていない」と発言。同日 管理者○○に報告。
ポイント:「与えられていない」は推測。見たもの(冷蔵庫・炊飯器)と本人・家族の言葉を分けて書く。
### 3. 閉じ込め
悪い例:
本人を部屋に閉じ込めている。長男は本人を外に出さない。
良い例:
○月○日 10:30 訪問。本人の居室のドア外側に掛け金あり、訪問時は掛かっていなかった。本人「夜は外から掛けられる。トイレに行きたいときは呼ぶ」と発言。長男「夜中に出歩いて危ないから」と発言。居室内にポータブルトイレなし。本人の足のむくみを確認(両足首)。同日 管理者○○に報告し、市町村への相談を決定。
ポイント:「閉じ込め」という言葉でなく、掛け金の有無・位置・掛かっていたかどうか・本人と家族それぞれの言葉を書く。
### 4. お金
悪い例:
長男が年金を使い込んでいる。本人は生活費をもらえていない。
良い例:
○月○日 訪問。○月分の利用料が引き落とし不能との連絡が事業所に○日にあり。本人「年金は息子が管理している。お金は月に○円もらっているが、今月はまだ」と発言。財布内は小銭のみ(本人が自ら見せた)。灯油が切れており暖房を使っていない(室温は寒い程度、温度計なし)。長男には電話するも不通(○日・○日)。同日 管理者○○に報告。
ポイント:「使い込み」は判定。引き落とし不能の事実、本人の言葉、生活への影響(灯油・暖房)を書く。
### 5. 本人の言葉
悪い例:
本人は長男から虐待を受けていると訴えている。
良い例:
○月○日 訪問(長男不在の場面)。本人「息子に毎晩怒鳴られる。『早く死ね』と言われた」と発言。「誰にも言わないで」との発言もあり。話している間、両手を膝の上で握り、声が小さくなる。言われた日を聞くと「昨日も一昨日も」とのこと。本人に「私は○○さんの味方です」と伝える。同日 管理者○○に報告。
ポイント:本人の言葉は要約せず「 」でそのまま。「訴えている」は書き手の要約。言葉に加えて様子(手・声)を事実として残す。
### 6. 家族の言葉
悪い例:
長男は介護を放棄している。本人に無関心で、態度が悪い。
良い例:
○月○日 訪問時、長男在宅。本人の入浴について聞くと、長男「もう2週間入っていない。自分は仕事で無理」と発言。デイの利用を提案すると「金がかかるから嫌だ」と発言。長男は会話中スマートフォンを見ながら返答。本人は同室で下を向いていた。長男に「お手伝いを増やす相談をしたい」と伝え、長男「勝手にしてくれ」と発言。同日 管理者○○に報告。
ポイント:「放棄」「無関心」「態度が悪い」は評価。家族の発言をそのまま、行動(スマートフォンを見ながら)を事実として書く。
通報・相談したあとの記録
通報したこと自体も、事実として残します。
同日16:00 管理者と相談のうえ、市町村高齢福祉課○○氏に電話で相談・通報。伝えた内容は上記のとおり。市町村より「○日に包括と訪問し事実確認する」と回答。今後の訪問頻度は週1回に増やすことを管理者と合意。本人への連絡は事実確認の訪問後に市町村と調整。
通報後の記録で気をつけること:
- 市町村や包括から聞いた対応方針は、相手の言葉として「市町村より『〜』と回答」の形で書く
- 家族に通報を知られる心配がある場合、記録の閲覧範囲を管理者と確認する(事業所の規程で扱いが決まっていることが多い。要確認)
- 通報後も、本人へのサービスと家族への関わりは続ける。「通報したから終わり」ではなく、その後の訪問の記録も同じ型で続ける
根拠・参考
- 高齢者虐待防止法:養護者による虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者の市町村への通報の努力義務、生命・身体に重大な危険がある場合の通報義務、通報者の不利益取扱いの禁止、通報者を特定させる情報の漏えい禁止、通報が守秘義務違反にならない旨(条番号・細部は要確認)
- 通報を受けた市町村・包括が事実確認と対応方針の決定を行う(「市町村・地域包括支援センター向け高齢者虐待対応マニュアル」等。名称・年月は要確認)
- 介護保険の運営基準における虐待防止の措置(指針の整備・研修・担当者)。事業所の指針に報告・通報の手順が定められていることが多い(要確認)
- 支援経過の記録の整備・保存は運営基準で求められている(記録の保存年限は要確認)

文例の前に線引きを確かめたいときは、35の困りごとから選ぶと「あなたの役割はここまで」と「次に誰につなぐか」が出ます。
困りごとから選ぶ →更新履歴:2026-10-02 公開(たたき台・監修中)
