となりのケアマネさん

これ、私がやるの? ケース20

家族の虐待・放置が疑われる。確信がなくても通報・相談していい理由

執筆:石田竜生(作業療法士・介護支援専門員資格(株式会社おふとん)) 実務の監修:主任介護支援専門員(大阪府・経験11年) 監修中 法律部分:司法書士・行政書士 確認中 公開 2026-10-02/更新 2026-10-02

よくある場面 訪問時に腕にあざ。「転んだ」と言うが位置が不自然。食事が置かれていない、痩せてきた。部屋の外から鍵がかけられている。年金が入る日に家族が来て、本人の手元にお金がない。「確信がない」「家族との関係を壊したくない」で迷う。

うつむくおばあさんの隣でケアマネがしゃがみ、そっと肩に手を添えている

1まず結論

虐待かどうかを確かめるのはあなたの仕事ではなく、市町村(と包括)の仕事です。あなたの役割は「気づいたこと」を事実のまま、早めに市町村・包括へ伝えるところまで。確信がなくても通報・相談してよく、通報は守秘義務の違反にならないこと、市町村が通報した人を明かさないことが法律で定められています。一人で抱えないでください。

2あなたがすること

  • 見たこと・聞いたことを、その日のうちに事実のまま記録する(日時・部位・大きさ・本人と家族の言葉)
  • 管理者に報告する(事業所として動く形にする)
  • 市町村の高齢者虐待の担当か地域包括支援センターに通報・相談する(「虐待かどうか分からないが気になることがある」で十分)
  • 通報後、市町村・包括が行う事実確認(訪問・面談)に情報提供で協力する
  • 本人へのサービスは止めず、訪問の頻度を上げるなど「目が届く形」を保つ
  • 家族への支援(介護負担の軽減・経済的な相談)を、市町村・包括の方針に沿って組む

3あなたが抱えなくていいこと

  • 虐待かどうかを自分で判断すること、確証を集めてから通報すること
  • 家族に「虐待ですか」と直接問い詰めること
  • 本人を自分の判断で家から連れ出すこと、保護すること
  • 通報したのが自分だと家族に知られるのではという心配(市町村は通報者を特定させない対応をとる)
  • 一人で見続けること

※「通報する」=「家族を敵にする」ではありません。市町村・包括は家族の支援も含めて動きます。本人へのサービスも家族への関わりも途切れさせません。

4次に確認すること

  1. 本人の今の体の状態(傷の部位・大きさ・色、体重・食事の状況、意識)と、今すぐ医療・保護が要るか
  2. 本人の言葉と家族の言葉(そのまま。解釈を足さない)
  3. 本人が今日・今夜、安全に過ごせるか(家族が同居で本人がおびえている場合は、その点を市町村に伝える)

5誰につなぐか

順先何を
1市町村の高齢者虐待担当(高齢福祉課など)通報・相談の窓口。事実確認と対応方針は市町村が決める。緊急時は保護(やむを得ない事由による措置)の判断
2地域包括支援センター通報・相談の窓口(市町村と同じ扱い)。ケアマネと一緒に事実確認・家族支援を組む
3事業所の管理者通報の前に報告。事業所として通報する形にする
4警察暴力が今起きている、命の危険があるとき(110番)
5かかりつけ医・訪問看護傷や衰弱の医学的な確認。「転んだ」で説明がつくかの判断
6社協(日常生活自立支援事業)・権利擁護センター・福祉事務所経済的虐待の場合の金銭管理の切り替え。後見制度の相談
7家族向けの支援(介護者の会・ショートステイ・通所の増・家族相談)市町村・包括の方針のもとで、介護負担を減らす形を組む

相談先の名前は地域で違います。「お住まいの市区町村名+窓口名」で検索してください。

6相手への伝え方

本人へ(家族のいない場面で、責めずに):

「腕のあざ、痛くないですか。どうしてできたか、覚えていたら教えてください。」
「○○さんが困っていることがあれば、私は味方です。誰にも言わないでほしいことがあれば、それも教えてください。」

※本人が「何もない」と言っても、その言葉を記録に残したうえで、通報の判断は変えません(本人の同意は通報の条件ではありません)。

管理者へ:

「○○さんの訪問で、腕に3cmほどのあざが2か所ありました。本人は『転んだ』と言っていますが、位置が内側で転倒では説明しにくいと感じました。冷蔵庫に食べ物がなく、前回より痩せています。虐待かどうかは分かりませんが、市町村(包括)に相談したいので、事業所として通報する形で進めてよいでしょうか。」

市町村・包括へ:

「担当している○○さん(○歳・要介護○・長男と同居)について、虐待かどうか分かりませんが気になることがあり相談します。○月○日の訪問で、左上腕の内側に3cm程度のあざが2か所。本人は『転んだ』と話しています。冷蔵庫に食品がほとんどなく、前回より痩せている様子です。長男は日中不在です。本人に今すぐの危険はないと思いますが、事実確認をお願いしたいです。」

家族へ(問い詰めない。通報とは別に、関係を切らさない声かけ):

「お母様の食事や身の回りのことで、大変になっていることはありませんか。介護がしんどくなるのは当たり前のことなので、お手伝いを増やす相談をさせてください。」

7記録の残し方

○月○日 14:00 訪問。本人の左上腕内側に直径約3cmの紫色のあざ2か所を確認。本人「昨日転んだ」と発言。長男は不在。冷蔵庫内に食パン半分と調味料のみ。本人「昨日は昼にパンを食べた」と発言。前回訪問(○月○日)と比べ頬がこけている、体重は未測定。生活の困りごとを聞くと本人「何もない」と発言。同日15:30 管理者○○に報告。同日16:00 管理者と相談のうえ、市町村高齢福祉課○○氏に電話で通報・相談。市町村より「○日に包括と訪問し事実確認する」と回答。今後の訪問頻度は週1回に増やすことを管理者と合意。

※避ける書き方:「虐待されているようだ」「長男が怪しい」「かわいそう」など判断や感情の言葉。書くのは、見たこと・聞いたこと・日時・部位・数字・誰に伝えたか。

この記録の文例は、ほかの34場面と並べて記録文例集にもまとめています →

あなたのケースは?

5つの質問に答えると、この記事の線引きが「あなたの答え」に合わせて整理され、相談メモになります。

あなたのケースを3分で整理する →
  • 気になったのはどれですか(複数可)
  • 本人の今の状態は
  • 本人は何と言っていますか
  • 家族の様子は
  • これまでに誰かに話しましたか

8根拠

  • 高齢者虐待防止法では、養護者による虐待を受けたと思われる高齢者を見つけた人に市町村への通報の努力義務があり、生命・身体に重大な危険が生じている場合は通報の義務がある。「受けたと思われる」段階で通報してよく、確信は要らない
  • 同法第8条で、通報を受けた市町村の職員は、通報した人を特定させる情報を漏らしてはならないとされている(通報を理由とした解雇などの不利益な扱いを禁じる第21条第7項は、施設職員による虐待の通報についての規定)
  • 同法により、通報は守秘義務の違反にならないとされている(第7条第3項)
  • 通報を受けた市町村・包括が事実確認と対応方針の決定を行う(厚労省老健局「市町村・都道府県における高齢者虐待への対応と養護者支援について」令和7年3月)
  • 年金・預金の使い込みなどの経済的虐待も、高齢者虐待防止法の虐待の類型に含まれる
  • 事業所として、虐待に気づいたときの報告・通報の手順が虐待防止の指針や運営規程で定められていることが多い(介護保険の運営基準における虐待防止の措置。指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準 第27条の2・第18条第6号)

一次資料(リンク先を実際に開いて確認済み)

本文の「要確認」は、上の資料で確認し次第、表記を確定します。

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更新履歴:2026-10-02 公開(試作v1・監修中)