
これ、私がやるの? ケース29
「遺言のこと、聞いていい?」相続・終活の相談をどこまで受けるか
執筆:石田竜生(作業療法士・介護支援専門員資格(株式会社おふとん))
実務の監修:主任介護支援専門員(大阪府・経験11年) 監修中
法律部分:司法書士・行政書士 確認中
公開 2026-10-02/更新 2026-10-02
よくある場面 訪問の帰り際に「私が死んだら、この家は誰のものになるの」「遺言って、書いておいたほうがいい?」。家族から「母に遺言を書かせたい。ケアマネさんから言ってもらえない?」。兄弟の取り分、相続税、「あなたが証人になってくれない?」。

1まず結論
遺言・相続の「中身」に答えるのはケアマネの役割ではありません。答えると本人と家族の財産に影響し、あとで争いに巻き込まれます。あなたの役割は「本人の希望を聞き留めて、中立の相談窓口へ渡す」ところまで。「話してくれたこと」自体は、大事に受け止めます。
2あなたがすること
- 本人が「何を心配しているか」を聞く(財産の行き先/葬儀・お墓/家族に迷惑をかけたくない/誰にも言えなかった)。ここは聞いてよい
- 本人の希望(誰に知らせたいか・どう過ごしたいか・最期の場所)は、ACP(人生会議)やエンディングノートの話として聞き留め、記録に残す。財産の中身・金額は聞かず、記録もしない
- エンディングノートの紹介(自治体・社協が配布しているものがあれば)
- 中立の相談窓口の一覧を渡す(包括・社協・法テラス・司法書士会・弁護士会・公証役場・市町村の無料法律相談)
- 本人の判断力に心配があれば、包括に「意思決定支援・後見の入口」として相談する(→ケース14)
- 家族から「本人に言ってほしい」と頼まれても、本人の意思が先。ケアマネが本人に遺言を勧める役はしない
3あなたが抱えなくていいこと
- 遺言の書き方・有効性・相続分・相続税についての助言(「自筆でいいですよ」「長男が半分」と言わない)
- 遺言の証人・立会人になること(あとの争いで呼ばれる)
- 特定の士業・業者を紹介して対価を受け取ること
- 家族の間の取り分の調整役
- 家族に代わって本人に遺言を勧めること
※「答えない」=「聞かない」ではありません。話したい気持ちは受け止め、窓口に届くまで支援を途切れさせません。
4次に確認すること
- 本人が自分で相談に行けるか(または相談に同席できる家族がいるか)
- 判断力に心配があるか(遺言を書ける状態かどうかは専門職が判断する。ケアマネは判断しない)
- 急ぎか(入院・終末期・家族の対立)。窓口の優先順位が変わる
5誰につなぐか
| 順 | 先 | 何を |
|---|---|---|
| 1 | 地域包括支援センター(権利擁護) | 中立の入口。判断力の心配、後見の相談 |
| 2 | 社会福祉協議会・権利擁護センター(中核機関) | 終活・後見の相談。エンディングノートの配布(地域による) |
| 3 | 法テラス(日本司法支援センター) | 法律相談の窓口案内。収入などの要件を満たせば無料相談 |
| 4 | 司法書士会(相談センター)・弁護士会(法律相談センター) | 遺言・相続の専門相談。有料の場合あり(初回無料の地域も) |
| 5 | 公証役場 | 公正証書遺言の作成相談 |
| 6 | 市町村の無料法律相談(広報に掲載) | 予約制。初回の整理に |
| 7 | 税務署・税理士会 | 相続税の相談 |
相談先の名前は地域で違います。「お住まいの市区町村名+窓口名」で検索してください。
6相手への伝え方
本人へ:
「大事なことを話してくださって、ありがとうございます。遺言や相続の中身は、私が答えるとかえって○○さんやご家族に不利になることがあるので、そこは専門の方につなぎます。でも、○○さんが『誰に何を伝えたいか』『どう過ごしたいか』は、私が聞いておきます。無料で相談できる窓口がいくつかあるので、一覧をお持ちしますね。」
家族へ:
「お母様の遺言について、私からお母様に『書いたほうがいい』とお勧めすることはできないんです。ご本人の気持ちが先になります。ただ、お母様ご自身が心配されていることは伺っていますので、ご本人が相談できる中立の窓口(包括・司法書士会・法テラス)をご案内します。ご家族が同席できる形で、一度相談されてはどうでしょうか。」
7記録の残し方
○月○日、訪問時に本人より「自分が死んだら家は誰のものになるか、遺言を書くべきか」と相談あり。ケアマネは遺言・相続の内容について助言できない旨を説明し、了承を得る。本人の心配は「子どもたちがもめないか」「葬儀は簡素にしたい」の2点(財産の内容は聞き取らず)。専門の相談窓口(包括の権利擁護・司法書士会の相談・法テラス)の一覧を渡し、本人「娘と一緒に行ってみる」とのこと。本人同意のうえ長女へ電話し、窓口の情報を共有(○日に予約予定)。葬儀の希望は本人の意向としてアセスメントに記載。管理者に報告済み。
この記録の文例は、ほかの34場面と並べて記録文例集にもまとめています →
あなたのケースは?
4つの質問に答えると、この記事の線引きが「あなたの答え」に合わせて整理され、相談メモになります。
あなたのケースを3分で整理する →- 誰から相談されましたか
- 聞かれた中身はどれに近いですか
- 本人の判断力は
- 急ぎ度は
8根拠
- 遺言・相続の相談は居宅介護支援の業務に含まれない。厚労省「ケアマネジメントに係る諸課題に関する検討会 中間整理」(令和6年12月)の別添では「財産管理」「死後事務」が③他機関につなぐべき業務に例示されている(遺言・相続そのものの記載はない)
- 遺言は民法に方式が定められ、方式を欠くと無効になることがある。有効性の判断や作成の助言は弁護士・司法書士・公証人などの専門職の領域
- 報酬を得て法律事務を扱うことは弁護士法で制限されている(要確認)。無償でも助言は避ける
- 本人の意思を聞き留める考え方は、厚労省「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン」「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」(前者は平成30年6月・第2版 令和7年3月、後者は平成19年5月策定・平成30年3月改訂)
- 士業への紹介で対価を受けることは、士業側の規程で禁じられている場合がある(要確認)。自事業所の運営規程・就業規則も確認
- 調査では、終活相談(葬儀・成年後見・遺言・身元保証)を受けたケアマネは2人に1人(ケアマネジメント・オンライン/Yahoo!エンディング 2014年、534人。参考:https://www.care-news.jp/news/post_783 )
- 参考:あるある収集 #48(財産・相続の相談を持ち込まれる) https://www.tsumugukai.net/helpfull-free/7716/ / #112(亡くなった後に家族から「相続で必要」と書類提出や裁判への協力を求められた) https://www.sn-hoki.co.jp/shop/item/81260295
一次資料(リンク先を実際に開いて確認済み)
- 高齢者等終身サポート事業者ガイドライン内閣官房(身元保証等高齢者サポート調整チーム)・内閣府・金融庁・消費者庁・総務省・法務省・厚生労働省・経済産業省・国土交通省・令和6年6月
- 身元保証等高齢者サポートサービスの利用に関する啓発資料等について(事務連絡)/ポイント集「『身元保証』や『お亡くなりになられた後』を支援するサービスの契約をお考えのみなさまへ」消費者庁消費者政策課・消費者教育・地方協力課・平成30年8月30日
- 身寄りのない方が亡くなられた場合の遺留金等の取扱いの手引(改訂版)厚生労働省健康・生活衛生局生活衛生課・社会・援護局保護課・法務省民事局・令和3年3月(令和5年7月第1次改訂、令和7年7月第2次改訂、令和7年10月第3次改訂)
- 身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン厚生労働省医政局(平成30年度厚労科研 山縣班策定、医政総発0603第1号で周知)・令和元年6月3日
本文の「要確認」は、上の資料で確認し次第、表記を確定します。
関連するケース
更新履歴:2026-10-02 公開(試作v1・監修中)
